許容応力度等計算
許容応力度等計算は、一次設計と二次設計とを合わせた総称。
耐震設計目標
一次設計
まれに発生する地震(中程度の地震)に対して、建築物が損傷しない(性能の低下が生じない)ようにすること☆☆☆☆
「許容応力度計算」や「屋根葺き材」の計算。
二次設計
極めてまれに発生する地震(最大級の地震)に対して、崩壊・倒壊しないようにすること☆☆☆
「層間変形角」「剛性率」「偏心率」「保有水平耐力」の計算。
用語
長期荷重
建築物及び建築物の構造物が長期間にわたって受ける重量、応力、変形その他の影響の合計。
長期荷重には、固定荷重と積載荷重の両方が含まれる。
短期荷重
短期的に作用することが想定される荷重。地震、台風、大雪による荷重など。
塑性
物体に力を加えて生じた変形が、力を取り除いても元に戻らない性質。
(⇔ 弾性:元に戻る性質)
固有周期(設計用一次固有周期T)
固有周期が長いほど、ゆっくり揺れる ⇔ 短いと小刻みに揺れる
免震構造などで建築物の長周期化を図りたい。
同じ地震でも、個々の建築物の固有周期の違いにより、建築物の揺れの大きさは異なる。
- 質量が大きい(重い)ほど大きく(長く)なる☆☆☆
- 剛性が大きい(堅い)ほど小さく(短く)なる☆☆
- 「RC造」より「S造」のほうが長い
鉄筋コンクリート構造(RC造)より鋼構造(S造)の方が、固有周期は長くなる☆
躯体にひび割れが発生するほど、固有周期が長くなる。
耐震スリットを設けると、固有周期が長くなる。
免震構造は、固有周期が長くなる☆
⇒ 固有周期を長くすることで地震動との共振現象を避ける。
最大応答加速度と表面最大加速度
固有周期が短い建築物では、「最大応答加速度」が「地面の最大加速度」より大きい。
▶最大応答加速度
地震が発生した際の構造物の揺れ(応答)の加速度の最大値。
▶表面最大加速度(地面の最大加速度)
地震が発生した際の地面の揺れの加速度の最大値。
剛床仮定
地震力での床の変形を無視し、床を水平内面で剛なもの(変形しない)と仮定したもの。
- 鉄筋コンクリート造のスラブなどにより床の一体性の確保が図られた剛床仮定のものでは、建築物の各層の地震力は、柱や耐震壁などの水平剛性に比例して負担される。
特定天井
天井脱落によって重大な危害が及ぶ天井。
- 周囲の壁との間に隙間を設けない特定天井は、「天井面の許容耐力」「天井面を設ける階に応じた水平震度」「天井面構成部材などの単位面積重量」を用いて「天井面の長さの検討」を行う。
ヤング係数
物体の変形のし易さ(し難さ)を測るための指標。
- ヤング係数が大きくなれば、梁のたわみは小さくなる。
- ヤング係数は、引っ張り強さに影響されない。
⇒ 鋼材の引っ張り強さを大きくしても、梁のたわみは変わらない(小さくならない)
外圧係数
建物などの外表面に受ける風による荷重を係数で表したもの。
「風圧力」を求めるときに関係する。
二次設計
- 層間変形角
- 剛性率
- 偏心率
- 保有水平耐力
耐震設計における二次設計とは、上記の検討を行い、建築物が弾性限を越えても、
- 層間変形角は1/200以下とし、塑性変形可能な範囲にあること
- 保有水平耐力は必要保有耐力以上、最大耐力以下であること
を確かめるために行う。
きわめてまれに生じる地震に対しては、躯体の一部を塑性化させて地震のエネルギーを吸収する。
⇒ できる限り多くの梁に塑性ヒンジができて全体の買いが一様に塑性化することが望ましい
▶塑性ヒンジ
塑性が進み部材がピン支点(ヒンジ支店)のような状態になり回転に対し抵抗がなくなった部分。
層間変形角(できるだけ小さくする☆)
地震時の「各階の水平変位」を「階高」で割ったもの。
各階における層間変形角の値は、一次設計用地震力に対し、1/200以内となるようにする☆
地震力によって生じる各階の層間変形角の差はできるだけ小さくする☆
×層間変形角の差が大きくなると、耐震上有利になる。
⇒2階及び3階においても、1階と同程度の層間変形角となるように耐力壁を配置する。
剛性率(値が小さいほど危険性が高い☆☆☆)
剛性の立体的なバランスを評価するための指標。
「各階の層間変形角の逆数」を「建築物全体の層間変形角の逆数の平均値」で除した値☆☆☆☆
各階の剛性率は6/10以上とする。
剛性
物体のずれ・ねじれに対する抵抗の度合い。
- 水平力に対する剛性は、同じ高さの建築物の場合、鉄骨構造より鉄筋コンクリート構造のほうが大きい☆
- 小梁付き床スラブにおいては、小梁の過大なたわみ及び、大梁に沿った床スラブの過大なひび割れを防止するため、小梁に十分な曲げ剛性を確保する☆☆☆
面内と面外
- 面内:対象の面に対する水平方向
- 面外:対象の面に対する垂直方向
建築物は、床や屋根の面内剛性(≒水平方向の剛性)を高くし、地震力や風圧力などの水平力に対して建築物の各部が一体となって抵抗できるように計画する☆☆
偏心率(値が大きいほど、危険性が高い☆☆☆☆)
重心と剛心の偏りのねじれ抵抗に対する割合。
「各階の偏心距離(重心と剛心との距離)」を「当該階の弾力半径」で除した値☆☆☆☆☆
・重心:建物の重さの中心
・剛心:建物の強さの中心
⇒ 重心と剛心との距離(偏心距離)はできるだけ小さくなるように計画する☆
- 偏心率は、建築物の各階平面内の各方向別に求める。
- 偏心率の算定は、袖壁、腰壁、垂れ壁などは耐力壁として影響を考慮する☆
- 偏心率を小さくするために、剛性の高い耐力壁を建築物外周にバランスよく配置する。
保有水平耐力
建築物が保有する水平方向の耐力。
保有耐力
構造物が地震や風などに対して保有している耐力。
鉄骨構造の梁端接合部の早期破壊を防ぐために、梁端のフランジ幅を拡げ、作用する応力を減らす設計をした場合であっても、保有耐力接合の検討を行う。
⇒ 「保有耐力接合の検討」は省略できない。
保有耐力接合の検討
接合する部材が十分に塑性変形するまで、「接合部が破断しない」ように設計すること☆☆☆☆
×保有耐力接合の検討は、柱及び梁部材が局部座屈を防止するために行う
※「柱及び梁の局部座屈の防止」は「幅厚比の検討」で行う
▶「接合部が破断しない」設計☆☆☆☆☆☆☆
-
鉄骨構造において「柱梁接合部パネル」よりも「梁又は柱」が先に降伏するように設計する☆☆☆
⇒「柱梁接合部パネル」の方が耐力が高くなるように設計する
- 鉄骨造の建築物の筋かいについて、軸部の全断面が降伏するまで、接合部が破断しないようにする。
- 鉄筋コンクリート造においては、「梁又は柱の耐力」より「柱梁接合部の耐力」のほうが高くなるように設計する。
- 木造の建築物について、終局状態において耐力壁が破壊するまで、柱頭・柱脚の接合部が破壊しないことを計画によって確認する必要がある。
- 大梁は、材端部が十分に塑性化するまで、継手で破断が生じないようにする
耐震計画
耐震性能を高める考え方☆☆☆☆☆☆☆
- 構造物の強度を大きくする
- 構造物の変形能力(靭性、ねばり強さ)を大きくする
靭性に乏し構造であっても、十分に強度を高めることによって、耐震性を確保することができる。
「部材が塑性化した後の変形能力を大きくすること」は、ねばり強さに期待する考えになる。
制振構造
振動を制御する装置や機構を建築物内に組み込んだ構造。
大地震 ⇒ 制振装置を各層に分散配置する
暴風時 ⇒ 制振装置を頂部に集中配置する
免震構造☆☆
建築物と基礎との間に積層ゴム支承やダンパーなどを設置し、地震時の振動エネルギーを吸収する構造。
免震構造には、建築物の長周期化を図ることにより、地震動との共振現象を避ける働きがある。
▶積層ゴム支承(ししょう)
共振現象
建築物の固有周期と地震の揺れの周期が一致して建築物の揺れが大きくなる現象。
耐震診断
第1次診断方法
「壁量」の多い建築物にする診断手法。
第2次診断方法
「壁」「柱」の強さと変形能力などをもとに耐震性能を判断する診断手法。
第3次診断方法
「壁」「柱」「梁」の強さと変形能力などをもとに耐震性能を判断する診断手法。
その他
ピロティ形式
2階以上の建物の1階部分に壁を設けず、柱だけの空間にしている形式。
- ピロティ階(壁のない階)は、地震時に崩壊しやすいので、柱の耐力及び靭性を大きくする。
⇒ ピロティ階で層崩壊しないような架構形式を採用する。 - 鉄筋コンクリート造の建築物のピロティ階は、単独柱の上下端で曲げ降伏となるように設計するとともに、ピロティ階の直上、直下の床スラブに十分な剛性と強度を確保する。
- ピロティ階の必要保有水平耐力は、「剛性率による割増係数」と「ピロティ階の強度割増係数」のうち、大きい方の値を用いて算出する☆☆☆
出典:ホームズ
エキスパンションジョイント(伸縮継ぎ手、Exp.J.)
- エキスパンションジョイントのみで接している複数の建築物については、それぞれ別の建築物として構造計算を行う☆☆☆☆☆
鉄骨鉄筋コンクリート造
- 鉄骨鉄筋コンクリート造の梁について、梁のせいを梁の有効長さで除した数値が1/12以下の場合は、過大な変形や振動による使用上の支障が起こらないことを計算によって確認する必要がある。
鉄筋コンクリート構造
柱と梁からなる「ラーメン構造」と「耐力壁」の双方で地震力などに対抗する構造。
- 地震力に対して十分な量の「耐力壁」を設けた場合でも、架構(柱と梁で組んだ構造)を構成する柱については、水平耐力の検討を行うことが必要。
- 鉄筋コンクリート造(RC)は、鉄骨造や木造の建築物より単位床面積当たりの重量が大きいので、構造設計においては風圧力よりも地震力に対する検討が重要となる。
鉄骨構造
- 鋼材に繰返し応力を受ける場合(稼働するクレーンを支持する鉄骨造の梁など)は、高サイクル疲労の検討を行う。
木造
- 水平トラス、火打材、水平筋かいは、水平構面の剛性を確保するために使用する☆
×床組や小梁梁組のたわみの減少 - 木造軸組み工法の建築物について、構造耐力上主要な柱の所要断面積の1/3を欠込みした場合、その部分を金物などで補強する。
杭基礎
- 杭基礎において、根入れの深さが2m以上の場合、基礎スラブ底面における地震による水平力を低減することができる☆
- 建物の基礎の構造は、地盤の長期許容応力度が20kN/㎡未満の場合は、基礎杭を用いた構造を採用する。
積雪後の降雨の影響を考慮して積雪荷重の割増を行う場合
- 多雪区域以外で、かつ、垂直積雪量が15㎝以上の区域
- 屋根の規模が比較的大きく、緩勾配(かんこうばい)、屋根が軽い(鉄骨造屋根等)
⇒ 上記の場合、「屋根の勾配」及び「屋根の再上端から最下端までの水平投影長さ」に応じて積載荷重を割り増す。
まとめ
建築構造は、各項で共通することも多いので、まずは全体を理解していきたいものですね。深みにハマるのは追々で…
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一次設計は、まれに発生する地震に対して、建築物が損傷しない(性能の低下が生じない)ようにすること☆☆☆☆
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二次設計は、極めてまれに発生する地震に対して、崩壊・倒壊しないようにすること☆☆☆
- 層間変形角は、できるだけ小さくする。
- 剛性率は、値が小さいほど危険性が高い☆☆☆
- 偏心率は、値が大きいほど危険性が高い☆☆☆☆)
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固有周期は、
・質量が大きい(重い)ほど大きく(長く)なる☆☆☆
・剛性が大きい(堅い)ほど小さく(短く)なる☆☆
・鉄筋コンクリート構造より鋼構造のほうが、長い - 耐震性能を高める考え方☆☆☆☆☆☆☆
・構造物の強度を大きくする
・構造物の変形能力(靭性、ねばり強さ)を大きくする - エキスパンションジョイントのみで接している複数の建築物については、それぞれ別の建築物として構造計算を行う☆☆☆☆☆